このページでは研究室として力を入れて取り組んでいきたい研究トピックをまとめています.奈良先端大への受験を検討している方や,当研究室に興味を持っていただいている方にとって,小論文作成や研究テーマ決定の参考になるかもしれません.ぜひチェックしてみてください.
目次
- テーマ①:あらゆる場所での高度な意思決定を支援するエッジAI技術
- テーマ②:セキュアなデータ流通を可能にするプライバシー保護技術
- テーマ③:多数モバイルノードの超高精度測位技術
- テーマ④:あらゆるセンサーデータを取り扱う生成AI
- テーマ⑤:あらゆる場所での空間情報を実時間計測・共有する3次元点群センシングシステム
- テーマ⑥:人に寄り添う生活支援システムの開発
- テーマ⑦:ロボットとともに生きる生活におけるストレス推定技術の開発
- テーマ⑧:一般家庭における複数居住者行動認識技術の開発
- テーマ⑨:生活のゲーム化
- テーマ⑩:Well-being中心のコンピュータインタラクションの実現
- テーマ⑪:リアルタイム感情コンピューティングの確立
- テーマ⑫:知的情報環境コンピューティングの創出
- テーマ⑬:BLEデータに基づくタウンセンシング
- テーマ⑭:受容される見守り社会
- テーマ⑮:情報的健康のためのフレームワーク設計
テーマ①:あらゆる場所での高度な意思決定を支援するエッジAI技術
目標
Society 5.0を実現するためには、あらゆるシーンへのCPSの浸透が必須である。高機能なAIの機能をエッジデバイス上で実行できるようにすることで、インターネットやクラウドへの接続が難しい環境でもAIを利用した高度な意思決定支援を可能にする技術を創出する。
必要なテクノロジー
- エナジーハーベスティング
- 連合学習
- モデル圧縮
- 分散システム
研究例
- Victor Romero, Tomokazu Matsui, Yuki Matsuda, Hirohiko Suwa, Keiichi Yasumoto: Towards Opportunistic Federated Learning Using Independent Subnetwork Training, SMARTCOMP 2024: 174-181
- Sopicha Stirapongsasuti, Shinya Misaki, Tomokazu Matsui, Hirohiko Suwa, Keiichi Yasumoto: Batterfly: Battery-Free Daily Living Activity Recognition System through Distributed Execution over Energy Harvesting Analog PIR Sensors. DCOSS 2021: 54-56
- Keiichi Yasumoto, Hirozumi Yamaguchi, Hiroshi Shigeno: Survey of Real-time Processing Technologies of IoT Data Streams. J. Inf. Process. 24(2): 195-202 (2016)
テーマ②:セキュアなデータ流通を可能にするプライバシー保護技術
目標
Society 5.0を実現するためには、あらゆるシーンにおけるリアルタイムデータ収集が必須である。人に関するデータにおいては、個人を特定されてしまうリスク(客観的プライバシー)と他人に見られたら恥ずかしいと思う気持ち(主観的プライバシー)の両方を考慮し、データを保護する必要がある。本テーマでは、様々なセンサーを対象に、人に関わるデータをセキュアにリアルタイム収集できる技術を創出する。


必要なテクノロジー
- 差分プライバシー
- プライバシー保護要求の推定手法
- k-匿名化、プライベート情報検索(PIR)
研究例
- Sopicha Stirapongsasuti, Francis Jerome Tiausas, Yugo Nakamura, Keiichi Yasumoto: Preserving Data Utility in Differentially Private Smart Home Data. IEEE Access 12: 56571-56581 (2024)
- Lucas Maris, Yuki Matsuda, Keiichi Yasumoto: Protecting Cross-Camera Person Re-Identification Data with Image Differential Privacy. SMARTCOMP 2024: 386-391
- Francis Tiausas, Keiichi Yasumoto, Jose Paolo Talusan, Hayato Yamana, Hirozumi Yamaguchi, Shameek Bhattacharjee, Abhishek Dubey, Sajal K. Das: HPRoP: Hierarchical Privacy-preserving Route Planning for Smart Cities. ACM Trans. Cyber Phys. Syst. 7(4): 27:1-27:25 (2023)
テーマ③:多数モバイルノードの超高精度測位技術
目標
多数の小型モバイルノードが移動している環境で、中央サーバを利用せず、ノード間の協調処理により全ノードの位置を超高精度で推定する技術を創出する。
(c) Interstella Technologies Inc.
必要なテクノロジー
- 高精度測距技術
- 画像処理、信号処理
- 分散システム
研究例
- 数千〜数万の超小型人工衛星のフォーメーションフライトにおける位置推定と制御
- 群ナノロボット、ドローン制御
テーマ④:あらゆるセンサーデータを取り扱う生成AI
目標
現在の生成AIはテキストや画像を理解し生成できるが、センサデータの取り扱いはできない。本テーマでは、センサデータを理解し生成することが可能な生成AIの構築技術を創出する。
必要なテクノロジー
- IoTによるセンシング技術
- 生成AI構築技術
- 自然言語処理技術
- 対照学習
研究例
- 各シーンにおけるセンサーデータ、画像、音声、テキストの相互変換
- ongoing
テーマ⑤:あらゆる場所での空間情報を実時間計測・共有する3次元点群センシングシステム
目標
空間を3次元点群としてキャプチャすることで、遠隔ユーザ間の空間共有、デジタルツインのための仮想空間の構築などに活用できる。本テーマでは、あらゆる空間を手軽に、かつ、リアルタイムにキャプチャしセキュアに共有する技術を創出する。

必要なテクノロジー
- LiDARやカメラによる空間キャプチャ技術
- エッジでの点群処理技術
- 点群データのストリーミング技術
- 点群データに対するプライバシー保護技術
研究例
- Tatsuya Amano, Teruhiro Mizumoto, Srikant Manas Kala, Hirozumi Yamaguchi, Tomokazu Matsui, Keiichi Yasumoto: Visual Privacy Control for Metaverse and the Beyond, IEEE Pervasive Comput. 23(1): 10-17 (2024)
- Shigetomo Sakuma, Yuki Mishima, Tomokazu Matsui, Hirohiko Suwa, Keiichi Yasumoto, Tatsuya Amano, Hirozumi Yamaguchi: Privacy Awareness of Spatial Sharing System based on 3D Point Cloud: Insights from a User Survey, PerCom Workshops 2024: 308-313
テーマ⑥:人に寄り添う生活支援システムの開発
従来の行動認識システム(あるいは、行動認識結果に基づいて何かしらのサービスを行うシステム)は侵襲感、監視感、異物感、信頼性、認識精度等の課題から普及には至っていない。本テーマでは、以下の図に示すような人間中心の考えに基づく、生活支援システムの実現を目指す。
研究領域
・行動認識ロジック開発のための機械学習、深層学習
・行動予測のための機械学習モデル説明性に関するスキル
・ヒューマンコンピュータインタラクションのための心理学的知見
・アプリ実装のためのフロント・バックエンド開発スキル

図 人に寄り添う生活支援システム
テーマ⑦:ロボットとともに生きる生活におけるストレス推定技術の開発
ストレスマネジメントはウェルビーイングを実現するうえで重要な要素であるものの、日常生活の中でどのようにストレスが発生し、解消されるのかを明らかにした記事は少ない。ストレス状態になりやすい・なりにくい行動やシステムからの介入方法が明らかになれば、家具家電、あるいはヘルスケアシステムからのストレスフリーなユーザフィードバックを実現できる。
研究領域
・基本的な機械学習、深層学習
・ストレス理解のための心理学的知見
・アプリ実装のためのフロント・バックエンド開発スキル

テーマ⑧:一般家庭における複数居住者行動認識技術の開発
複数居住者家庭における行動認識は、行動認識に加えて、その行動の動作主の個人識別を実施する必要があり、非常に難しい。特に一般家庭においては、カメラやマイクの利用は、プライバシーの懸念から抵抗感があり、ウェアラブルセンサ等の利用も制限される。本テーマでは、限られたセンサ(人感センサ・環境センサ・プライバシーに配慮したセンサ類等)から、一般家庭での利用を念頭にした複数居住者行動認識システムの構築を目指す。
研究領域
・応用的な機械学習、深層学習
・センシング、センサ開発のスキル

テーマ⑨:生活のゲーム化
何かしらの目標を立て自己実現を達成するためには、しばしば日常生活行動の改善が重要となる。また、部屋の片付けや帰宅後の手洗いなど、習慣づけたい行動の存在がある。これらの行動あるいは習慣を生活とし、居住者が理想の自身に近付くことを支援する、ゲーミフィケーション生活支援システムの構築を目指す。
研究領域
・ゲーム、インタフェース実装のためのスキル
・心理学的スキル
・ゲーム

テーマ⑩:Well-being中心のコンピュータインタラクションの実現
【背景】 デジタル技術は私たちの生活に深く浸透し、社会活動や経済活動に不可欠なものとなっています。しかし同時に、デジタル依存やプライバシーの侵害、情報過多によるストレスなど、新たな問題も生み出しています。現在のデジタル社会は、必ずしも人間中心、ましてやWell-being中心とは言えません。そこで私たちは、テクノロジーと人間性の調和を図り、人間中心のデジタル社会の実現を目指します。
【技術例】
- 生体情報・環境情報の融合による人間状態の包括的推定と状態遷移を予測・制御する Human Digital Twin 技術
- 個人モデルを集約し、集合知として進化させる連合学習アーキテクチャ
- 認知負荷と情報価値のトレードオフを最適化する適応的情報制御理論
【活用例】
- 共感力向上を目的としたスマートフォンと共生するインタラクション基盤システム
- ユーザ特性に基づく音楽視聴推薦システム
テーマ⑪:リアルタイム感情コンピューティングの確立
【背景】 私たちの日常生活は、喜び、悲しみ、怒り、不安など、様々な感情によって彩られており、これらの感情は意思決定や行動に大きな影響を与えています。しかし、現状の情報システムは、このような人間の感情状態を十分に理解・活用できているとは言えません。人々の表情、声色、生体信号などから感情を推定する技術は進歩してきていますが、個人から社会レベルまでの感情状態をリアルタイムに理解し活用する技術的基盤は未だ確立されていません。より人間的で共感的なテクノロジーの実現に向け、感情を理解・活用する新しい情報技術社会の確立を目指します。
【技術例】
- マルチモーダルセンシングデータを用いた感情状態の推定技術
- 個人から集団までのマルチスケール感情伝播モデルと制御理論の確立
- 感情状態予測に基づく先制的介入を実現する感情誘導アーキテクチャ
- 感情AIによる介入の倫理性と安全性を保証する自己制御機構の確立
【活用例】
- 感情AIによる心理的影響から個人を守る: 段階的実証実験を通じた倫理的検証
- 短期時間解像度・高精度の感情推定AIモデルの構築
テーマ⑫:知的情報環境コンピューティングの創出
【背景】 私たちの生活空間は、急速にデジタル化が進んでいます。家庭やオフィス、都市空間全体が、インテリジェントなシステムによってつながる「知的情報環境」が形成されつつあります。しかし現状では、個々のシステムは独立して動作し、環境全体としての知的な振る舞いや、人々への自然な支援は実現できていません。環境そのものが知性を持ち、人間と共に進化しながら調和的な知の創発を実現する、新たな環境知能パラダイムの確立に挑戦します。
【技術例】
- 遍在型センサネットワークによる意図や文脈を推論する環境知能技術
- 物理空間とサイバー空間の整合性を保証する空間同期技術
- プライバシー制約下での分散協調学習に基づく環境最適化技術
- 実世界の不確実性に適応する環境埋め込み型AIシステム
【活用例】
- ユビキタスセンサを活用した無意識的学習環境最適化システム
- 参加型環境センシングによる都市共創プラットフォーム
- ユーザ状態や都市空間に適応した情報提供手法最適化の研究
テーマ⑬:BLEデータに基づくタウンセンシング
【背景】 特定の場所のリアルタイムな人流計測技術として,カメラや各種センサを用いた手法が確立されつつある.しかし,街中すべてを網羅するまでには至っていない.一方で,街中の人流を把握する手法として,ユーザのGPSデータを利用した手法も存在するが,リアルタイムに処理することは困難である.そのため,街中すべての人流をリアルタイムに把握するとともに,将来の人流を予測するための手法が求められている.
【技術例】
- BLEセンシングによる回遊・滞留センシング技術
- 受動型MobilBLEセンシングによる全都市人流推定技術
- 合成人口データとデータ同化を用いたマルチエージェントシミュレーションによる人流予測
【活用例】
- 全都市人流推定・予測に基づくナビゲーション
- 人流予測に基づくデマンド交通の最適化
- EBPMに基づく交通施策の立案
テーマ⑭:受容される見守り社会
【背景】 Society5.0の実現のためには,個人に対するモニタリングが必要不可欠である.しかし,個人モニタリングは,一定程度受容されない.この問題の解決には,単にハードウェアセキュリティを向上させるだけでなく,個人情報を管理するソフトウェアや運用方法も含めた仕組み全体を社会システム基盤として捉え,そのICT化を図る必要がある.
【技術例】
- 個人情報流通受容モデルの構築
- PPLRとPIFoTを用いた個人情報流通基盤の構築
- 差分プライバシと連合学習を用いた個人情報流通技術
- LLMを用いた個人情報流通受容のための説得・行動変容技術
【活用例】
- コンテキストを考慮したプライバシ制御
- 災害時における個人情報の流通と管理
- 緊急時における子ども・お年寄りの見守り
テーマ⑮:情報的健康のためのフレームワーク設計
【背景】 フィルターバブルやエコチェンバーに代表されるようなアテンションエコノミーに対する情報的健康の重要性が高まっている.情報的健康のためには,情報接触に対するセルフマネジメント支援が必要となる.情報技術によって奪われ続けるアテンションの質と量を,情報技術によってマネジメントし,情報的健康を獲得を目指す.
【技術例】
- 機械・深層学習を用いたスタンス判定
- LLMを用いたエージェント生成
- IoTナッジによる情報行動変容
【活用例】
- ニュースサイト・プラットフォーマへの実装
- ニュース記事への評点付与
- デジタル健康診断
- バランスの良い情報接触によるDigital Diet